NVIDIA DGX Station™ が現場の課題を解決する切り札に
「学術とスポーツの真剣味の殿堂たれ」を建学の精神として掲げる中京大学は、多くのオリンピック代表選手を輩出していることでも知られる総合大学。
1954年に設立された中京短期大学が前身となり、1956年に商学部を有する単科大学として開学した経緯から、スポーツ科学部の知名度とともに、充実した文系学部・学科を有しているのが特色だ。これに加えて、近年では理系分野にも注力しており、1990年の情報科学部設置を皮切りに、情報理工学部への改組を経て2013年に工学部を設立。世界的なメーカーが集積する中部地域において、ITとものづくりの融合にも柔軟に対応できる人材の育成を進めている。
工学部の学部長を務める工学部 機械システム工学科の橋本学教授は、「3次元センシング」「画像センシング」「ヒューマンセンシング」という3つの領域を中心に、ディープラーニングを活用した実利的な新技術や革新的な仕組みなどを研究。
現在は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と連携する人工知能関係の研究プロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(人工知能分野)や、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)による「センター・オブ・イノベーションプログラム(COI)」の「ヒューマンデザイン」グループにも参画するほか、中部大学・三菱電機との合同チームで参戦した知能ロボット競技大会「第3回アマゾン・ロボティクス・チャレンジ」では、物を棚に補充する「Stow task」種目で世界3位に入賞するなど、ロボティクス分野へのディープラーニングの応用でいくつもの目覚ましい成果をあげている。
「私の研究室では、『現場の課題にサイエンスで応える』をモットーに研究を進めています。これは私がメーカー出身ということもあり、さまざまな現場の課題を企業側の努力だけで解決するのではなく、サイエンス(=科学)の光を当てなおして解決すべきだと考えているからです」(橋本教授)
これに加えて橋本教授は、ディープラーニングの研究のみに限定するのではなく、ディープラーニングとは直接関係のない部分にまで筋を通して手掛けたいと考えている。例えば、物流や流通の分野であれば「ロボットの制御なども含めた末端までやりきる」というスタンスだ。これも、メーカー出身だからこそ湧き上がる信念といえるだろう。
「これは個人的なスタンスというわけでもありません。これからの研究・開発では、各分野の人々が遠くから手を握り合うだけでは不十分で、お互いがそれぞれの領域へ踏み込んでいくことも必要だと感じています。そう感じるのは、私が大学教授でありながら、エンジニアとしての気持ちがまだ90%ぐらい残っているからでしょう」(橋本教授)
GPU占有率を上げれば、さらなる成果も期待できる
ディープラーニングの最前線を走る橋本教授は、大学生だった1980年代からすでにコンピュータに触れていただけでなく、先進的な教授の元で画像処理について研究。メーカーに就職してからも画像処理の研究を続けてきたほか、物流に関連した3Dセンシングにも携わるようになったそうだ。「画像処理は30年以上研究していますが、世の中のニーズがいよいよ追いついてきたかなと。これは本当に運がいいと感じています」と笑みをこぼす一方で、「この流れはこれからも続くと思いますが、今後を担う学生の数は決して多いとはいえません。人材育成が追い付いていないと実感しています」と、現状の課題も思わず口にする。
2008年に大学に籍を移し、GPUを使ったディープラーニングを手がけるようになったのは2015年頃から。当初は10万円前後の市販のGPUからスタートし、段階的により高性能なGPUへとステップアップしていった。
「ちょうどそのころからNEDOやCOIのプロジェクトがスタートし、アマゾン・ロボティクス・チャレンジにも参加するようになりました。そうなると当然、いままで以上にGPUに対する欲求や要望が出てきます。そのためリソースが完全に足りなくなってしまい、研究室では学生がGPUを取り合うほどの状況になってしまいました」(橋本教授)
この状況を打破するため、2018年1月末にNVIDIA DGX Stationを研究室に導入
さらに、2018年3月には2台目も導入し、万全の体制を整えた。「研究のスピードや質、バリエーションは、GPUの性能によって飛躍的に変わります。それだけに、GPUのパワーはあればあるほどうれしいですよ」と、橋本教授は目を輝かせる。
NVIDIA DGX Stationを導入してまだ日は浅いものの、従来と比較して「3~4倍の成果は出ています」と橋本教授は実感を語る。
これまでは1~2日で終了できないようなタスクは制限してきたが、NVIDIA DGX Stationを利用すれば、従来で1週間かかると思われたタスクの処理も不可能ではない。
研究のスピード感が上がるのはもちろんのこと、より複雑なタスクにも対応可能となるため、研究の幅がさらに広がることは間違いない。
「現状でもNVIDIA DGX Stationの性能には満足しています。ただ、チューニングを施してGPUの占有率はさらに上げれば、もっと成果は上げられるはずです。どこまでできるかは未知数ですが、もしかしたら従来比の10倍も不可能ではないのかもしれません。
画像認識やディープラーニングはGPUの処理性能がある意味すべてですから、そこは飽くなき探求として突き詰めていきたいと思っています」(橋本教授)
ディープラーニングの性能はまだまだ底上げできる
ディープラーニングの研究は現在も世界中で進められており、数年後には「その本質が解明されるのではないか」との予測があるほか、「もう次のステージの研究に進むべきではないか」との見方も一部では出てきているという。
これに対して橋本教授は、ディープラーニングの性能は「まだまだ底上げできる」と見ており、物体認識技術に加え、ヒューマンセンシングの領域には、とくに力を入れていきたい考えだ。
例えば、顔の表情からその人の心理を読み取り、それを教育現場に活用する研究などがすでにスタートしている。また、少子高齢化から伝統技術が失われつつある現状に注目し、熟練の職人が持つ匠の技を保存するプロジェクトも2014年前から手掛けている。
「手法としては、音楽家の演奏を楽譜に書き起こすイメージと同じです。カメラやセンサーを使って職人の作業工程や動きを読み取り、それを自動的に記号の列へと変換するやり方を取り入れています。この技術はほぼ成功しており、現在は次の段階としてそのデータを大量に集め、ビッグデータ解析を進めているところです」(橋本教授)
この解析が進めば、熟練の職人と初心者の動きの違い(=匠の技の秘訣)をデータ化することが可能になる。将来的には、そのデータをロボットに組み込む構想もあるそうだ。「ロボットへの組み込みは当分先の話ですが、その前段階として、この解析データを効率的な技術指導に役立てることも可能でしょう。NVIDIA DGX Stationでこれらの研究を加速させ、ディープラーニングのさらなる活用と発展を進めていきます」(橋本教授)
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